行政書士
安田 大祐
リブレグループ(行政書士法人リブレ/社会保険労務士法人リブレ/株式会社リブレキューズ)代表。北海道大学教育学部卒業後、医療法人での勤務を経て独立。障害福祉サービス事業所の立ち上げ支援や運営支援を専門としている。趣味は音楽活動や海外バックパッカー旅行。「人生一度、やりたいことをやる!」をモットーに挑戦を続けている。
[障害者向けサービス]
障害福祉サービスの運営指導について、集団指導・監査との違い、指導結果の扱い、報酬返還との関係を解説します。個別支援計画や加算の根拠書類、人員配置、サービス提供記録など、運営指導に向けて優先的に確認したい書類と、限られた時間で効率よく準備するためのポイントを紹介します。
障害福祉サービスや障害児通所支援においては、指定権者が事業所を指導・監査できると定められています。指導の方法としては「集団指導」と「運営指導」の2つが示されています。これとは別に、不正や重大な基準違反の疑いがあるときに行われるのが「監査」です。
集団指導は、指定権者が管内の事業者を一定の場所に集めて、講習などの方法で行う指導です。最近は、オンライン配信や動画・資料の公開で行う指定権者も増えています。主な内容は直近の制度改正に関する注意喚起や報酬請求の留意点、虐待防止や身体拘束適正化などの重点事項、他の事業所の運営指導で多かった指摘事例の紹介などです。
集団指導はすべての事業所に同じ情報を一斉に伝えることが目的なので、個々の事業所の書類を確認されることはありません。多くの指定権者では年1回程度行われます。出席・受講したことを報告するよう求められることが多く、受講しなかった事業所を運営指導で優先的に確認する自治体もあります。
過去の運営指導で指摘が多かった事項を聞くことができるということは、その指定権者が重点的に見てくるポイントを予め知ることができるということでもあります。「聞くだけの研修」と軽く考えず、必ず受講し、資料を事業所内で共有するようにしましょう。
一方、運営指導は、指定権者の担当者が事業所ごとに個別に行う指導です。以前は「実地指導」と呼ばれていましたが、「運営指導」に名称が変わりました。書類の確認などの一部はオンラインでも行われるようになっています。運営指導は事業所に問題があるから行われるものではなく、原則としてすべての事業所を対象に、定期的・計画的に行われます。頻度は指定権者によって違いますが、概ね3年に1回は行うとしている指定権者が多く見られます。また、指定初年度は必ず運営指導を行うとしている指定権者もあります。一方で、指定から5年経っても運営指導が入らないという事業所もあり、指定権者やサービス種別によって大きく差があるのが現状です。
運営指導では通常、事前に日程と準備する書類の通知が届きます。当日は、管理者やサービス管理責任者または児童発達支援管理責任者などへのヒアリングや書類の点検、事業所内の確認が行われます。
確認されるのは、人員・設備・運営の基準を守っているか、報酬を正しく請求しているかです。具体的には、個別支援計画、サービス提供記録、勤務形態一覧表、加算の根拠書類、掲示物、各種委員会の議事録などで確認されます。
集団指導が「全事業所に共通するルールを伝える場」だとすれば、運営指導は「事業所が実際にルールどおり運営できているかを個別に確かめる場」といえます。
一方で、監査は通報や苦情、運営指導の結果などから、不正請求、虐待、重大な基準違反が疑われるときに行われます。結果によっては、勧告・命令、指定の効力の停止や取消しといった行政処分につながります。運営指導の途中で重大な違反の疑いが見つかれば、監査に切り替わることもあります。
集団指導と運営指導が「指導」として事業所の適正運営に対する支援を目的にしているのに対し、監査は事実関係を確かめて必要な措置を取るための手続きです。この位置づけの違いを押さえておきましょう。
運営指導の目的は、事業所の適正な運営を確保し、事業者を育成・支援することです。基準どおりに運営しているかを確かめるだけでなく、より良い支援につなげるための助言や指導を行う場でもあります。運営指導は「取り締まり」ではなく、事業所が正しく運営できるよう後押ししてくれる制度だと理解しておくとよいでしょう。
運営指導の結果は、指摘の程度に応じて助言、口頭指導、文書指導に分かれます。文書指導を受けた場合は、指定された期限までに改善報告書を出し、是正すれば完了です。運営指導において報酬の算定に誤りが見つかったときは、報酬の返還(過誤調整)を求められることがあります。ただし、これは誤った請求を正すためのものでありペナルティではありませんので、正しく返還の手続きを行えば問題ありません。とはいえ、内容によっては返還額が数百万円に及ぶ可能性もあります。報酬や加算の算定は要件を遵守して正しく行うようにしましょう。
また、運営指導は限られた人員・時間内で行われるため、必ずしもすべての書類を事細かに点検されるとは限りません。今回はたまたま見られなかった・担当者が不備に気づかなかった結果、指摘されなかったという可能性もあります。そのため、指摘がなかった=問題なかったと考えるのではなく、正しい事業所運営ができているか常に確認するようにしましょう。
運営指導で目指したいのは、報酬返還、減算、指定取消しなど、経営に直結する重大な不利益を避けることです。基準や通知を細かく確認し、丁寧に運営していても、何かしらの助言や指摘を受けるのが普通です。口頭指導や文書指導といった指摘は、後日きちんと是正すれば問題ありません。「完璧」を目指すよりも、「致命傷」を避けることが大切です。
(もちろん、完璧が作れればそれに越したことはありませんが、限られた時間の中で何からどのようにやっていくかということを組み立てる上での優先順位の考え方として)
そのためには、準備に優先順位をつける必要があります。事業所の書類は膨大で、運営指導の実施が決まってからすべてを点検するのは現実的ではありません。運営指導で確認されるのはこれまでの事業所運営の結果ですから、まずは日常的に書類の整備をしっかり行うことです。そのうえで、まずは報酬に直結する書類から確認するようにしましょう。個別支援計画が正しい手順で作られているか、算定している加算の要件を裏づける書類がそろっているか、勤務形態一覧表で人員基準を満たしているか、サービス提供記録と請求内容が一致しているか、といった点です。誤字や様式の細かな不備よりも、実質的な運営基準違反や不正受給にあたる状態がないことを最優先に確認するようにしてください。
ここで役立つのが集団指導です。集団指導の資料には、その指定権者が重視している点や、運営指導で実際に多かった指摘事例がまとめられています。つまり、「この自治体の運営指導で何が確認されやすいか」を知る手がかりになります。集団指導で示された重点事項を事業所の書類と照らし合わせ、当てはまる不備があれば運営指導を待たずに直しておきましょう。集団指導を受けて自主点検を行い、運営指導で個別に確認を受ける。この流れを意識すれば、毎年の準備が効率的になります。
集団指導は、指定権者が全事業所に制度改正や指導の重点事項を一斉に伝える場です。運営指導は、事業所ごとに個別に入り、ヒアリングと書類の確認で実際の運営状況を確かめる場です。どちらも事業者の育成・支援を目的とした「指導」であり、不正や重大な違反が疑われるときに行われ、行政処分につながりうる「監査」とは位置づけが違います。
運営指導の結果は、助言・口頭指導・文書指導が中心で、改善報告と是正によって完了します。報酬の返還を求められることはあっても、それ自体は行政処分ではありません。大切なのは、指摘をゼロにすることではなく、報酬返還や減算、指定取消しにつながる「致命傷」を避けることです。
集団指導の資料で指定権者の重点事項を把握し、個別支援計画、加算要件、人員配置、サービス提供記録など、報酬に直結する書類から優先して点検していきましょう。準備の進め方に不安がある場合は、事前点検などで障害福祉に詳しいリブレに依頼するのもひとつの方法です。
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